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第三章 体が熱くなってくるのは、アルコールのせい9

last update Last Updated: 2025-01-17 14:05:48

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毎日のように連絡をくれていたのに、ここ一週間大くんは連絡をくれない。

忙しいのかもしれないと思って私からも連絡を入れずにいた。

残業をしながら、ふーっと息を吐く。どうしちゃったんだろう。

会いに行きたいけど寧々さんに会ってしまうかもしれない。

ちゃんと大くんに、話したいと思っているのに勇気が出なくて連絡できずにいる。

残業を終えて電車に乗ると、ホテルの広告が出ていた。もうすぐクリスマスだからホテルでディナーをと書かれている。

いいな……大くんと一緒に過ごせたら幸せだろうな。

こんなに好きなのにどうして我慢しなきゃいけないのかな。

自分の家の前に着くと高級外車が停まっていた。

「今度は一体、今度は誰?」

小さな声でつぶやいた私が近づくと車の窓が開いた。

「美羽さん」

中から声をかけてきたのは、大澤さん――大くんの事務所社長だった。家まで調べられたのか。

「お久しぶりね」

「こんにちは」

「夜遅くにごめんなさい。少しお話できないかしら?」

「…………大樹さんのことですか?」

「ええ。寒いから乗って」

助手席に乗り込むと、大澤さんは相変わらず美しい。

少し年齢を重ねた感じはあるけれど、あまり変わっていなくて昔のままだった。

「十年かぁー。またあなたと大樹が再会するなんてね。驚いちゃったわ」

座り心地のいいシートは、さすが高級外車という感じだ。

どこのメーカーかはわからないけれど……。

車の中にはクラシックが流れている。

仕事が終わったばかりの私は疲れきっていた。

「あの時は別れを決断してくれてありがとう。そのおかげで大樹は不動の地位を手に入れることができて、事務所も安泰なのよ」

「いえ」

「悲しい思いをさせてしまったことは謝るわ。私もあれから恋愛をして結婚をして子供も授かったの。自分が幸せになっていくたびにあなたへの罪悪感が出てきてね。気にはしていたのよ。どこかで幸せになっていてほしいなと願っていたわ」

雨まじりの雪が降ってきて、フロントガラスを濡らしていく。

「宇多寧々さんからいろいろ聞かされるまで、美羽さんと大樹が会っていることは知らなかった。大樹も年齢を重ねたし結婚をすることは賛成なの。ただね、芸能人ってイメージが大切でしょう? だから、有名モデルの寧々さんと結婚となるといい話題づくりになるし賛成しようと思ってたのに。大樹はあなたに会って償いの心が芽生え
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